

セミナーや診療、電話相談のときに、とても良く聞かれるご質問があります。
それは…
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血液検査で、肝臓の数値が高いといわれました。
肝臓が弱っているから肝臓を強化させなければならないのですが
どんな食材、どんなサプリメントがいいですか?
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というご質問です。
質問を間違うと迷宮に迷い込む
【質問の質は人生の質】
と言われますが、質問を間違うと間違った答えが集まってきます。
そして、人は最初に触れた情報の影響を強く受けがちです。
そんな理由から、間違った情報を支持する情報を集め始めます。
そして迷宮に迷いこみ、努力が空回りして報われない…ということになりがちです。
このような理由から、適切な質問をすることはとても大事なことなのです。
では適切な質問をするためには、いったい何が必要なのでしょうか?
前提が間違っている→理路整然と間違う
適切な質問が出来るようになるためには、
【正しい知識】を持っておくことです。
不適切な情報を元にして作られた
【前提】が間違っていると、質問も間違い続けます。
そして質問を間違うと、集まる答えも間違ってきます。
それが理路整然と間違い続けることにつながり、頑張れば頑張るほど努力が空回りし、報われない…
という事態になりがちです。
そして何年も悩み続けることになってしまっている方は珍しくありません。
ところで、冒頭の質問には、大きく三つの不適切な箇所があります。
まず「肝臓の数値が高い」という表現がありますが、一体どの数値が高いと問題なのでしょうか?
肝臓の数値が高いのはどの数値が高い?
もちろん、検査項目のどの数値も高すぎれば問題です。
今回は、「肝臓が…」ということですので、
【ALTの数値が高い】
ことが肝臓に問題が起こっていることを意味しているのかもしれません。
では、ALTの数値が高いという現象は、一体何を意味するのでしょうか?
そもそもALTが高いことが意味すること
そもそもALTが高いという出来事が意味することは、
【肝臓の細胞が破壊されている】ことを意味するのだと思います。
ALTは、肝臓の細胞の中に主に存在する酵素です。
この酵素が血液中に見つかるということは、
肝臓の細胞が破裂しているということを意味します。
ですから、本質的に改善すべき事は、ALTの数値を下げることではなく、
肝臓の細胞がこれ以上破壊されないようにすることが解決につながります。
では質問にもありますとおり、この状態は肝臓が弱っているのでしょうか?
肝臓は弱っているのか?
たしかに、破壊された細胞の分だけ、肝機能は低下していると言えるかもしれません。
そして、長期に障害を受け続けた結果、正常な領域がほとんど残っていない場合は、肝臓が弱っているかもしれません。
さらに、肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、目立った症状が出ませんから、症状が無いから肝臓は大丈夫だとも言い切れません。
しかし、肝臓は元々予備能力が高く【全体の一部が破壊された】ぐらいでは肝機能が低下することはありません。
ここまでの説明でご理解いただけたかと思いますが、肝臓が弱って肝臓の細胞が破壊されているのではなく、
体内で何かが起こっていて、肝臓の細胞がとばっちりを受けて破壊されていると考えられます。
例えるなら、平和な街(肝臓)に、突如どこかからミサイルが飛んできて、建物(肝臓の細胞)が破壊されている状態…
この問題を解決するには、街を静かに整えることではなく、ミサイルを飛ばした発射台(根本原因)を破壊することです。
その根本原因が、身体のどこにあるかは個々で異なるので、丁寧に調べてもらう必要があります。
このように、肝臓が弱っているわけではなく、肝臓そのものは正常なのに、【何らかの理由】で肝臓の細胞が破裂している場合は、肝臓を強くする必要はありません。
それなのに、
【肝臓を強化させよう】という方向に情熱を傾けることは、
元気な僕にスタミナドリンクを飲ませるような話になってしまいます。
つまり、不必要なことに一生懸命取り組んでいることになるわけです。
診療にお越しになる方は、このようなケースがとても多いのです。
ですから、肝臓の数値が高いことは、必ずしも肝臓が弱っていることを意味するわけではないことをまず覚えておいてください。
そして弱っているのか、弱ってはいないのかは、東洋医学的な判断基準で、調べてもらう必要があります。
ところで、検査数値を基準値に戻しさえすればいいのでしょうか?
数字を合わせればいいのか?
飼い主さんの中には「検査数値の結果に一喜一憂」する方が多いようですが、
血液検査で肝臓の数値が下がるのが、
【肝臓の細胞が破壊されなくなったから数字が下がる】のならばいいのです。
しかし、肝臓の細胞が破壊された根本原因をそのままにして、
数字だけを合わせれば良いと考えるのは、短絡的です。
かくいう私も、東洋医学や、薬膳の勉強をし始めていた頃、
【肝臓の数値を下げるには何の漢方、ハーブなのか】をたくさん暗記していけば、
最終的には瞬時に適切な判断ができる!と誤解していた時期がありました。
しかし東洋医学的に大切な事は、
【そのつど身体にきくこと】だと後で気付きました。
健康診断の結果のために「検査一週間前は酒を断つ」
ということが本質的にはおかしなことであるのと同じように
検査結果の数字を下げようということばかりに意識を向けると
下りさえすればいいというような誤解につながりかねません。
本質的な解釈・理解があれば、こういう方向には向かわないのですが、
周りから「症状を消すよう」言われたら
数字合わせに奔走することになるのは、仕方ないことかもしれません。
ところで、そもそも食材サプリで解決するのでしょうか。
そもそも、食材・サプリで解決するのか?
例えば何かの栄養がたらなくて、肝臓に問題が起こっているのであれば、食材やサプリメントを補うことで解決できる可能性があります。
しかし、栄養的には何も問題ないのに、肝臓の数値が高くなっていることは珍しくありません。
原因療法的には、この違いを見極めながら処置する必要があります。
しかし何が根本原因かを正確に把握することは、一般の飼い主さんには難しく、これは餅は餅屋で、プロに調べてもらうのが一番良いでしょう。
ところで、ハーブや漢方で肝臓の数値が落ち着いたという体験談がありますが、これはどう考えたら良いのでしょうか。
ハーブや漢方で数字が落ち着いたが…?
この変化が、もし
【原因がなくなって、結果的に数字が落ち着いた】のであればいいと思います。
しかし、数字だけがハーブや漢方で落ち着いて、原因が残ったままの状況だと、そのハーブや漢方をやめるとまた数字が上がるという結果になりがちです。
このことは、当たり前ですが原因が残っていることを意味します。
ですから、原因療法的には、症状をあえて消しません。
肝臓がおかしいわけでもありません。
と申しますのも、飼い主さんには強いサインが残っていた方が、原因が残っているのか?原因が処理能力の範囲内に落ち着いたのか?の違いが分かりますので、症状をあえて消さずに、出し続けていたほうがいいという考えもあります。
もちろん、症状が出続けることは、問題が蓄積していくし、ストレスが溜まることになります。
また、生まれてからずっととか、ここ何年もずっと肝臓の数値が高いというケースがあります。
ところで、このことは一体どんなことを意味するのでしょうか?
ずっと肝臓の数値が高いことが意味すること
これはずっと肝臓の細胞が破壊され続けていることを意味します。
ということは、体の中で【何かが起こっている】可能性があります。
ですからずっと肝臓の数値が高いから
●肝臓用の療法食を食べるとか、
●肝臓に良いサプリメントを摂取する
という方向で考えても、解決しないことがあります。
と申しますか、
実際に何年も肝臓の数値が高い状態が続いているわけですから、
その場合には肝臓をサポートしても効果がないということがお分かりいただけると思います。
では、肝臓の数値が高いことが続いている場合、どんなことを考えたら良いのでしょうか。
何を考えたら良いのか?
それは、肝臓の数値が高くなっている理由が、
身体のどこにあるのかをまず調べてもらうことが重要です。
そして、肝臓の数値を下げることを最優先にするのではなく、
肝臓の数値が高い原因を減らすにはどうしたらいいのか?
と考え調べてもらい、行動するという選択肢が重要なのではないでしょうか。
深夜に、ボヤが起きて、
それに反応してけたたましく鳴ってくれた火災報知器を、
「深夜にうるさくて眠れないじゃないか!」
と言ってぶち壊し、
「音がならなくなったらやっと静かに眠れる。」
ということにならないように考え、行動する必要があります。
もちろん、それが必要ならば
数字を減らすことが大事なこともあるかもしれません。
しかし、「ボヤ」を消すことを忘れないことは
とても大事なことだということをここで再認識したいと思います。